ここでは、遺言の方式や、各方式の長所・短所について触れたいと思います。必然的に堅い話になりますが、ご容赦ください。
※公正証書遺言をお勧めする理由のみをご覧になりたい方はこちら

遺言の方式については民法で定められており、大きく分けると

普通方式
特別方式

の2つがあります。

この2つをさらにもう少し細かく分類すると、下の表のようになります。

普通方式自筆証書遺言民法968条
公正証書遺言民法969条
秘密証書遺言民法970条
特別方式危急時遺言民法976,979条
隔絶地遺言民法977,978条

 

以下、各方式について説明します。

◆自筆証書遺言

最も簡単に作成出来る遺言であり、またその内容を誰にも知られない点が長所です。遺言者がその全文日付及び氏名自署し、押印することで作成します。短所としては紛失偽造変造の危険があることや文意が不明等の理由により遺言の効力が問題になる可能性が大きい、家庭裁判所の検認が必要となるといった点があります。またそもそも高齢者にとっては長文になりがちな遺言を全て自署すること自体が大変な上、書き間違いの修正や加筆等も法律上の規定通りでないと効力を生じないため、イメージするよりも実際には苦労することが多いのも事実です。
※令和2年7月10日より法務局における「自筆証書遺言保管制度(こちら)」が開始され、3,900円/件の手数料で遺言書の保管を申請出来るようになったため、紛失に関するリスクはこの制度を利用することにより回避可能になりました。

◆公正証書遺言

公正証書遺言は、文字通り公正証書で作成される遺言です。長所は偽造・変造の心配がないこと、また紛失や震災等による毀滅の心配もない(公証役場に厳重に保管される)こと、さらに公証人が関与することから遺言の効力が問題になる可能性を考えなくてよいといった点です。短所としては証人2名が必要とされるため内容が公証人・証人には知られてしまうこと、公証人とのやりとり等の手続が面倒であること、公正証書の作成には費用がかかること、などがあります。

◆秘密証書遺言

秘密証書遺言は、封印した遺言書公証人・証人の前に提出し、遺言の存在を明らかにしながらも内容は秘密のまま保管してもらう遺言です。もっともこの方式はほぼ使われていません。長所は内容が知られないこと、遺言書の証書自体には特別な規定はされていないので、遺言者の署名・押印さえあれば、本文は代書やパソコンで作成したものでもよいという点です。短所は本文の文意が不明等の理由で遺言の効力が問題になる可能性が大きいこと、法律で定められた要件を欠いた場合には遺言書としての効力が生じないことです。
※秘密証書遺言の要件を欠いていても自筆証書遺言としての要件を満たしていれば開封後に自筆証書遺言として有効になりますが、その場合は秘密証書遺言の長所である代書やパソコンでの作成が可能であるという長所が失われてしまいます。

◆危急時遺言

何らかの理由により死亡の危急に迫った者が遺言をしようとする時に用いられる死亡危急者遺言、船舶が遭難して死亡の危急に迫った者がなし得るの船舶遭難者遺言の2種類があります。一般的なケースではないので説明は省きます。

◆隔絶地遺言

伝染病により隔離された者の遺言である伝染病隔離者遺言と船舶中にあるものの遺言である在船者遺言の2種類の総称です。一般社会との自由な交通が法律上・事実上絶たれている場所にいる場合の方式だと言えますが、これも一般的なケースではないので説明は省きます。

公正証書遺言をお勧めする理由

当事務所で公正証書遺言をお勧めしている理由はいくつかあります。

1つ目は、なんといっても遺言の効力が問題になる可能性を考えなくてよい点です。公正証書遺言を作る際の手順は以下のようになります。

①遺言者の希望の聞き取り
②希望を元に遺言書の文章を起案
③公証人と起案したものをたたき台にして細部を調整(数回行います)
④最終案が固まった段階で遺言者に示し、希望通りであることを確認していただく
⑤遺言者が公証役場に出向き、公証人・証人2名と内容を最終確認後に公正証書に署名・押印

この②と③の段階で専門家同士の打ち合わせを行うことにより、内容や形式の不備が排除されるため、遺言の効力に関しては心配がないのです。せっかく遺言書を書いたのに何らかの不備のために遺言書としての効力が有効にならないということを避けられることが最大の利点だと言えます。

2つ目は、原本が公証役場に保管されることから偽造や変造、また紛失や震災等による毀滅の心配がないことが挙げられます。偽造や変造の心配がないということは、相続の時のトラブルが起こる可能性を低く出来ることを意味します。自分亡き後、相続で身内が争うのを望む人はいません。「本当に本人が書いたのかな?」「本心で書いたのかな?誰かに変なことを吹き込まれて書かされたんじゃないかな?」という疑心暗鬼から争いが起こり裁判所に持ち込まれてしまう、などといったことを防げるのも公正証書遺言の大きな利点です。
また作成した際に、正本と謄本2通が遺言者に渡されますので、正本を自分で、謄本を子供等に渡すことにより分散して保管することも可能です。この場合には、せっかく自筆証書遺言を書いたのに誰もその存在に気づかずに遺産分割協議をした後に遺言書が出てきた、などということも防げます。

3つ目は1つ目と関連しますが、内容・形式の不備に関して考慮しなくてよいため、自筆証書遺言で必要とされる家庭裁判所の検認が不要となることです。これにより、残された方たちの負担を減らすことが可能です。遺言書が効力を発揮するのは遺言者が亡くなった後ですから、当然、残された方々は葬儀をはじめとする様々な手配や役所その他への届出・手続に追われます。そんな中で少しでも負担を減らすことが出来ることも、利点だと言えます。

細かいことを挙げれば切りがありませんが、当事務所では上記の3つを大きな理由として、可能な限り公正証書遺言をお作りすることをお勧めしています。