遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の主な違い
今回は「遺留分についての補足」という記事の中で言及した、「遺留分侵害額請求権」について触れたいと思います。
これは民法改正によって、以前は「遺留分減殺請求権」と呼ばれていたものです。どちらも遺留分を侵害された人がその侵害の限度で請求できる権利ですが、大きな違いがあります。主要なポイントを見てみます。
(新)遺留分侵害額請求権 | (旧)遺留分減殺請求権 | |
権利の性質 | 金銭債権 | 物権的請求権 |
返還されるもの | 侵害された遺留分に応じた金銭 | 原則として侵害された遺留分に応じて各相続財産を割合で取得(注1) |
特別受益 | 相続開始以前10年に限定 | 制限なし |
※注1 例えば長男・長女の二人が相続人で長男が全ての財産(不動産・金銭)を相続した場合、長女には相続財産の1/4にあたる遺留分が認められるため、遺留分減殺請求により不動産・金銭の各1/4を取得するのが原則になります。この場合、不動産は長男3/4、長女1/4の持分での共有となります。
遺留分減殺請求権は法的には「物権的請求権」と呼ばれるもので、いわば「侵害された遺産そのものを取り返す権利」でした。そのため、例えば自宅の土地家屋が相続財産のほぼ全てだった場合、土地家屋は上記の注1のように共有状態になります。
ところが遺留分減殺請求がなされるのは相続トラブルが起こっている場合ですので、係争中の当事者による共有は誰も望まないというのが一般的な状況です。
そういった事情から現在の遺留分侵害額請求権は金銭債権となり、「侵害された遺産そのもの」ではなく「侵害された遺産の価値にあたる金銭」が給付されることになりました。
また特別受益者に関しても、以前はそれが20年前であろうと30年前であろうと減殺請求が認められていたのですが、遺留分侵害額請求権では相続が開始された時点から10年前までの期間に限定されています。あまりにも昔のことで現在では既に返還すべき財産が残っていなかったりする場合も考えると、この期間制限は妥当ではないでしょうか。
なお、遺留分侵害額請求権の時効は民法で以下のように定められています。
1048条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
相続が発生した場合、相続手続以外にもやることがたくさんあるのが通常ですので、1年というのはあっという間に過ぎてしまうこともあります。遺留分侵害額請求権を行使する必要があるような状況にならないのが一番ですが、仮にそうなってしまった場合には時間の経過にも十分注意する必要がありそうです。